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消費期限・賞味期限の設定方法~保存試験・加速試験の活用~

2024.07.26

消費・賞味期限の正しい設定方法をご存じですか?

食品企業における自社製品への賞味・消費期限設定は、食の安全性のみならず、収益性の面でも大変重要な項目です。
しかしながら、自社製品への正しい期限設定ができているのか、根拠を聞かれると不安に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、そんな不安を解消する、「消費・賞味期限の正しい設定方法」をご紹介いたします。

消費期限と賞味期限の違い

いずれも「未開封の状態で、定められた方法で保存した場合の品質保証期間」という部分は同じですが、次のような違いがあります。

消費期限とは

消費期限とは「腐敗、変敗その他の品質の劣化により、安全性を欠くおそれがないと認められる期限」のことです。
言い換えると、この期間を超えたら危険なので、食べない方が良いということになります。
品質劣化するまでの期限が短い、製造日から概ね5日以内に期限を迎える商品に用いられます。

賞味期限とは

賞味期限とは「期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限」のことです。
言い換えると、美味しく食べられる期限のことなので、この期間を超えても食べられる場合もあります。
なお、製造日から賞味期限までの期間が3か月を超えるものについては、「年月」で表示することが認められています。(ただし、当初設定した賞味期限の範囲内において、日の省略が可能。)

食品の期限設定の方法

食品の期限設定の方法については、法律で明文化されているわけではありません。
その代わりに、厚生労働省・農林水産省から指針となる、以下のガイドラインやQ&Aが発行されています。
・食品期限表示の設定のためのガイドライン
・加工食品の表示に関する共通Q&A(第2集・消費期限又は賞味期限について)


順番に内容を見ていきます。

食品期限表示の設定のためのガイドライン

「食品期限表示の設定のためのガイドライン」が平成17年(2005年)2月に発行されています。
発行からかなり経過しておりますが、今でもこれが食品の期限設定をする際の、基本の考え方となっています。

このガイドラインの項目2の「期限表示設定の基本的な考え方」を要約すると、以下の通りです。

(1)食品の特性に配慮した客観的な項目(指標)の設定
食品の期限は、客観的な項目(指標)に基づき設定する必要がある。
その指標とは、「理化学試験」、「微生物試験」のことである。「官能検査」については、適切にコントロールされた条件、適切な被験者、適切な手法で行った場合は指標とできる。
妥当性が証明できないオリジナルな方法での試験・検査は認められない。
「理化学試験」「微生物試験」の特性をしっかり理解した上で、総合的に判断して期限設定を行うこと。
長期保存品については、何年もの保存試験を実施するのは現実的ではない。
合理的に説明できるのであれば、限定した期限の品質確認(=加速試験など)でも、根拠とすることができる。

(2)食品の特性に応じた「安全係数」を設定
ガイドラインでは明示されていませんが、安全係数は一般的には0.7~0.9といわれています。

(3)特性が類似している食品に関する期限の設定
根拠を持って説明できれば、類似製品を参考にすることも可能です。
ただし、他社製品の期限設定を流用することは、原材料や工程などの条件が違う場合がほとんどで、高いリスクが伴います。

(4)情報の提供
期限設定の根拠は、必要があればいつでも情報提供できるよう、資料を整備・保管しておくことが必要です。

加工食品の表示に関する共通Q&A

次に参考とするのは、平成15年(2003年)9月に発行された「加工食品の表示に関する共通Q&A」です。

この中で、食品期限表示の設定に関連する、3つのQ&Aを抜粋、要約します。
 
Q7. どのように、消費期限や賞味期限を設定しているのですか。
A7. 食品の期限設定は様々な個別の要因によって決まるので、製造業者等(表示義務者)が責任をもって期限設定を行う。
これまでの経験、知識等を有効活用し、科学的・合理的な根拠に基づいて設定する。
(絶対的な期限設定方法はない。)
 
Q.10 製造業者等が消費期限又は賞味期限を設定する場合に実施しなければならない検査等は定められているのですか。
A.10 全ての品目に共通するようなルールはありません。
ただし、消費期限の設定には微生物試験、賞味期限の設定には微生物試験に加えて理化学試験・官能検査等が必要と考えられます。
なお、検査項目については、各食品の成分規格や衛生指導基準、また、業界のガイドライン等を参考に決定すると良い。
 
Q.11 輸入食品の消費期限又は賞味期限の表示を行う際に注意を要する点はありますか。
A.11 輸入食品については、輸入業者が期限設定に責任を持って行うこと。
国外の製造事業者により、既に期限設定がされている場合でも、その設定根拠についてしっかりと確認しておくこと。

その他の期限設定に関して考慮すべきこと

ガイドライン・Q&Aに加えて、以下に挙げる要因なども考慮に入れて、期限設定をする必要があります。

  • 原材料ロットの品質のばらつき
  • 製造ロットの品質のばらつき
  • 工場内での保管温度・湿度
  • 輸送時の温度(船便も含む)
  • 店頭での温度・湿度・光
  • 消費者の保管温度

保存試験の実施方法

それでは、「食品期限表示の設定のためのガイドライン」でも述べられていた、食品の保存試験(理化学試験、微生物検査、官能検査)について、ご紹介します。

食品の保存試験

食品の保存試験の方法は、以下の通りです。
まずは、期限を設定したい食品を準備します。
それを一定の温度に保つことができる保管庫(恒温槽)に入れ、設定した期間が経過したら取り出します。
その後、微生物検査、理化学検査、官能検査を行い、合格したら安全係数をかけて、賞味期限として設定します。
なお、保存試験の際に特に重要なのが、パッケージごと保管することです。
パッケージにより、保存状態が大きく変わるからです。

食品の保存試験

保存試験の流れ

①消費・賞味期限の仮設定
類似製品からの推測や流通・販売サイクル等を考慮し、目標とする消費・賞味期限を設定します。
 
②保存試験の期間の決定
目標とする消費・賞味期限よりも長い日数保存後、必要な検査を行い、基準に適合するか否かを判定します。
基準に適合した最長の保存期間に安全係数(0.7~0.9で設定)をかけたものが消費・賞味期限となります。
<例>40日間保存して基準に適合し、安全係数0.8と設定した場合、賞味期限は32日(40日×0.8)となる。
 
③保存条件の決定
商品への表示、流通や消費者の自宅での保存環境等を考慮して設定します。
例えば「10℃以下で保存」等と、温度を指定して表示する場合は、その上限温度の10℃で保存し、「常温(又は室温)で保存」等と温度を明示しない場合は、25℃、あるいは少し過酷な30℃を保存条件とします。
販売される季節や地域も考慮して決めます。
 
④検査項目の決定
規格基準、自治体の指導基準、衛生規範、納入先基準を考慮し、微生物検査、理化学検査、官能検査等の検査項目を選定します。
 
【微生物試験】
 一般生菌数、大腸菌群、大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、 カビ、酵母 など
【理化学試験】
 酸価(AV)、過酸化物価(POV)、水分活性、pH など
【官能評価】
  外観、色、におい、食感、味 など
 
⑤検査タイミングの決定
食品の劣化を把握できるように、どの時点で検査するかを決めます。
項目により、あまり変化のないものがあります。食品の変化が予測されるタイミングを重点的に検査します。
<例>保管温度25℃で、賞味期限30日以上を目標とした試験

検査項目

恒温槽について

食品を保管する恒温槽にも様々な種類があり、ここでは3つご紹介します。
まずは温度のみを設定できるタイプ、そして湿度も設定できるタイプ、さらに光照射が可能なタイプもあります。

恒温機の種類

加速試験を活用する

防災食、宇宙食など保存期間の長い食品に対して通常の保存試験を実施すると、期間が長すぎて待てない場合があります。
その場合は、温度・湿度等を上昇させた、より厳しい条件で保存する「加速試験」を実施することで、短期間で長期の賞味期限を推測することができます。
(ただし、食品により計算条件があてはまらない場合もあります。)

加速試験の方法

それでは、実際の加速試験の方法を説明します。
これは、日本災害食認証制度で製品固有の加速率を求める手順として紹介されている方法です。
まず、流通・販売温度よりも高い3温度以上(例:30℃、40℃、50℃等)でそれぞれサンプルを保管します。
各温度でのサンプル保管期間中に5回以上(保管20日、40日、60日、80日、100日後等)の保存検査(官能試験、酸価、過酸化物価等)を実施し、各温度での賞味期限を求めます。
得られたデータより、アレニウスの式(次の項で説明)を用い、製品ごとに固有の活性化エネルギーを算出し、理論式から流通・販売温度での賞味期限を設定します。

加速試験

アレニウスの式とは

「アレニウスの式」は、ある温度での化学反応(劣化)の速度を予測する公式であり、k=Aexp(-E/RT)で求めます。
公式中のE:活性化エネルギーは、食品ごとに固有の値なので、複数温度で保存試験を行い、関係式を作って求める必要があります。
なお、アレニウス式は「10℃上昇2~3倍則」といわれることもあり、経験則で劣化速度がその範囲に入ることが多いため、簡易的に10℃上昇での劣化速度を2倍または3倍と仮定して、ざっくりと試験をする場合があります。
しかし、2倍と3倍では賞味期限の推定値に大きな差がでるので注意が必要です。
この部分については、次の章で説明します。
 
アレニウスの式
K=Aexp(-E/RT)

k:反応速度定数
A:定数
E:活性化エネルギー
R:気体定数(8.314)
T:絶対温度(K)

賞味期限の推定方法

例1)アレニウスの式により「10℃上昇で劣化速度2倍」と設定した場合

25℃で賞味期限設定を行いたい場合、45℃で実際の保存試験をすれば、
20℃温度を上げているので劣化速度は2の2乗なので4倍となる。
従って、45℃で80日後の検査が適合の場合、25℃で320日後も適合とみなせる。
最終的に安全係数を0.8とした場合の【賞味期限は320日×0.8(安全係数)=256日】と推定できる

劣化速度2倍

例2)アレニウスの式により「10℃上昇で劣化速度3倍」と設定した場合

25℃で賞味期限設定を行いたい場合、45℃で実際の保存試験をすれば、
20℃温度を上げているので劣化速度は3の2乗なので9倍となる。
従って、45℃で80日後の検査が適合の場合、25℃で720日後も適合とみなせる。
最終的に安全係数を0.8とした場合の【賞味期限は720日×0.8(安全係数)=576日】と推定できる

劣化速度3倍

上記の通り、劣化速度の設定値を2倍にするか3倍にするかで、最終的な賞味期限の推定値が大きく変わってくるため、できる限り複数温度帯で加速試験を実施し、アレニウスの式を用いて製品固有の加速率を求めることが重要です。

加速試験の注意点

  • アレニウス式は化学反応による推定式であるため、この式で微生物の加速試験はできません。
    商業的無菌あるいは静菌されていることが前提です。
  • 食品ごとに反応速度が異なるため、単純に10℃上昇で劣化速度2~3倍で計算すると実際と乖離する場合があります。
  • チョコレートなど、温度を上げると融解するものはできません。
  • 加速試験とは別に通常の流通・販売温度での保存試験を行い、推定値に問題がなかったか確認することをお勧めします。

賞味・消費期限設定のまとめ

  • 期限設定に絶対的な方法は定められてなく、製造事業者の判断・責任で期限設定することが必要
  • これまでの経験、知識等を有効活用し、科学的・合理的に設定した根拠を説明できるようにしておく必要がある
  • 適切な期限設定をするためには、製造事業者自身が、試験方法(保存試験・加速試験条件等)、検査項目(微生物、理化学、官能検査)の意味について学び、理解しておく必要がある
  • 納入先や消費者の方に納得して頂くため、根拠となるデータを蓄積する
    また、自社内でも新商品開発時等に活用できるようにしておくと良い

なお、この記事の内容について無料セミナーを開催済みです。
下記URLからアーカイブをご覧いただけます。

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