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食中毒予防に重要な「衛生的手洗い」の効果と方法

2020.07.22

食中毒の原因と対策

食中毒の原因は、細菌、ウイルス、自然毒(動物性、植物性)、化学物質、寄生虫と様々な種類があります。その中でも、特に原因として多いのが、細菌ウイルスです。

細菌による食中毒を予防するためには、食中毒予防の三原則を徹底する事が必須です。菌を「つけない」「増やさない」「なくす」…これが食中毒予防の三原則です。この三原則には、それぞれ管理のポイントがあります。

  • 菌をつけない  … 手洗いや正しい身だしなみ。
  • 菌を増やさない … 食材や設備の温度管理。
  • 菌をなくす   … 食材の殺菌・加熱工程など。

食中毒予防の三原則に基づいて衛生管理を実施すれば、細菌による食中毒事故のリスクを大幅に抑えることができます。一方、ウイルスは細菌と違い、単独で増えることがありません。そのため、対策としては「つけない」「なくす」の2つになります。
ウイルスを除去できる条件は細菌より厳しいです。例えば、細菌の多くは中心温度75℃60秒加熱で死滅しますが、ウイルス(特にノロウイルス)は90℃90秒加熱しなくてはいけません。また、アルコールの効かないウイルスも多く存在します。そのため、ウイルスにおいては、ウイルスを「つけない」ことが最重要です。菌・ウイルスを「つけない」対策として、最も大切なことは「手洗い」です。

食中毒を起こす菌は人の手を介して飲食物を汚染する

食中毒事故のほとんどは、手洗い不足が原因で起こっています。年間1,000件以上の食中毒事故が発生していますが、その7割以上の原因が「手洗い不足」と言われています。手洗い不足が食中毒となる理由は2つあります。

1つ目は、「たった一人でも手洗いを怠ると、食中毒事故は起こる」という理由です。
人が介する工程では、全ての作業で手を使います。手が汚れていた場合、触ったところは全て汚染されてしまいます。手洗い不足の人が一人でもいると、その人が食品を触った時、食中毒事故は起こります。全員がしっかり手洗いをするよう、チェック表を作るなど工夫しましょう。

2つ目は、「人の手は菌が繁殖するのに最適な条件が揃っている」という理由です。
菌が繁殖するためには、「適温」「栄養」「水分」の三条件が必要です。

・適温
20℃から50℃付近を指し、特に30℃近辺が一番繁殖しやすい温度帯です。

・栄養
有機物、汚れの事です。汚れが溜まっているほど、菌の「エサ」が増えます。

・水分
多くの菌は繁殖するのに水分が必要です。人間の手には水分が豊富にあります。

人の手、特に汚れた手には、「適温」「栄養」「水分」の全てが揃っており、食中毒菌にとっての理想郷です。また、「適温」「栄養」「水分」が揃っていると、菌は倍に増えていきます。1時間に6回以上分裂する菌も存在します。手洗いを怠った手には、非常に多くの菌が潜んでいるのです。

食品取り扱い施設では「衛生的手洗い」が重要

食中毒事故の7割以上は「手洗い不足」が原因と言われていますが、裏を返せば、手洗いを徹底すれば多くの食中毒事故は防ぐことができます。

しかし、ただ手洗いをすればよいわけではありません。必要なのは「衛生的手洗い」を行う事です。
手洗いには、「日常的手洗い」「衛生的手洗い」「手術時手洗い」があります。

・日常的手洗い
食事の前や帰宅後など、日常生活で行う手洗いです。
目に見える汚れは落とせますが、小さな菌やウイルスまでは十分に落とせません。

・衛生的手洗い
一時的に付着した菌を物理的に洗い流す手洗いです。
健康な人の手にも多くの菌が常在していますが、これらの常在菌は食中毒を引き起こす恐れはありません。
外から一時的に付着し食中毒を引き起こす菌を洗い流すのが衛生的手洗いのポイントです。

・手術手洗い
手の常在菌まで洗浄・殺菌して除去するのが手術時手洗いです。
食品従事者は手術時手洗いまで行う必要はありません。「衛生的手洗い」の徹底を図りましょう。

基本手順は、(手洗い用洗剤→すすぎ)×2→乾燥→アルコール噴霧

「衛生的手洗い」の手順を解説します。

手洗順

1.手を濡らします。
流水で手の表面のほこりや油分を洗い落とします。
また、手が濡れていると、手洗い用洗剤が泡立ちやすいです。

2.手洗い用洗剤を取り、よく泡立てます。
泡立ちが良いほど効果が高まります。
手の全体を十分に洗える量の手洗い用洗剤を手に取りましょう。

3.手のひら同士をしっかりこすり洗います。
ゴシゴシと洗うのがコツです。

4.手の甲を洗います。
特に、指の背の洗い忘れが多いので気を付けましょう。

5.指と指を組み合わせて指の間と根元を洗います。
人さし指、小指の外側も忘れず洗いましょう。

6.親指を洗います。
親指のつけ根も忘れないようにしましょう。

7.指先をもう片方の手のひらと洗います。
手のひらのしわに沿って洗うと、しわの間の汚れもよく落ちます。

8.必要に応じて爪ブラシを使います。
爪ブラシは、管理が行き届いてないと、逆に汚染を広げてしまいます。
爪ブラシを使う際は、洗浄や保管をしっかりと行いましょう。

9.手首を洗います。
内側、側面、外側をまんべんなく洗いましょう。

10.流水でよくすすぎます。
食品に手洗い用洗剤が混入しないようにしっかりと落としましょう。

11.ペーパータオルでしっかり水分を拭き取ります。
ハンカチを使う場合、ハンカチが汚れていると手が汚染されてしまいます。
また、エアシャワーもウイルスなどをまき散らすおそれがあります。

12.アルコールを手にしっかりとぬり込みます。
この時、水分が残っているとアルコールの効果が弱まるので、しっかりと手を乾燥させてからアルコールを使いましょう。
アルコールが乾ききるまでに15秒以上かかる量を使用します。

より効果的な手洗い方法は、「2~10の工程を2回繰り返すこと」です。
手洗い前の準備と、正しい手洗いを行い、食中毒事故をゼロにしましょう。

2度洗いの重要性

手洗い方法で効果的だと言われているのが、「2度洗い」です。下の表は、手洗い方法の違いによる残存ウイルス数の変化を示した表です。

二度洗い菌数

手洗い用洗剤で10秒もみ洗い後、流水で15秒すすぎを2回繰り返す方法では、手洗いなし(ウイルス数100万個)と比べウイルス数が0.001%、数個にまで減少しました。長時間手洗いをし続けるより、短時間の手洗いを2回行う方が手洗い効果が高いという結果が出ました。
ウイルスを数個体内に取り込むだけで食中毒を引き起こすものも存在します。
2度洗いを実施し、事故を未然に防ぎましょう。

食品取扱者が手を洗うべきタイミング

手洗いの主な目的は、食品に「菌をつけない」事です。
そのため、食品に触れる前や、手が汚染されたタイミングで手を洗いましょう。
具体的には、下記のタイミングでの手洗いが必要です。

調理場に入る前
調理場内に菌を持ち込まないように、調理場入口で手を洗いましょう。

汚染区から清潔区に移動する前
汚染区に潜んでいる菌を清潔区に持ち込まないように、移動前は手を洗いましょう。

食品に触れる作業に入る直前
汚染された手で食品に触ると、食品に菌が付着し、食中毒事故を起こす可能性があります。
また、後工程で加熱工程のない食品を扱う際は、一度菌が付くと除去できないため、特に気をつけましょう。
同様に、配膳前も手を洗いましょう。

汚い物に触った後
洗浄前の原材料(生野菜、食肉類、魚介類、生卵など)は、菌に汚染されている可能性があります。
原材料を取り扱う作業の後は手を洗いましょう。
また、下膳作業や残飯・廃棄物の処理後も手を洗いましょう。

トイレの後
トイレの後の手指には、菌やウイルスに汚染されている可能性があります。
非常に広い範囲に尿などの飛沫が飛んでいるので、トイレ後の手洗いは、手指に加えて肘まで含めた腕全体を洗うようにしましょう。

顔や頭を触った時
鼻や口、毛髪には、菌やウイルスが付着してる可能性があります。
癖や無意識で顔を触っているおそれもあるので、顏や頭を触ったと気づいた時はすぐに手を洗うようにしましょう。
また、「食品に触れる前に手を洗う」ルールを徹底し、常に菌を食品につけないようにしましょう。

汚染率の低い作業中で手洗いをするときは、全て「衛生的手洗い」である必要はありません。
手を洗うタイミングに合わせて、使い捨て手袋も交換することで、食中毒のリスクは大幅に下がるため、合わせて実施しましょう。

手を洗うタイミングは、手洗いの方法とセットでマニュアル・ルールを作り、全従業員が実施する事が大切です。

2度洗いが必要な時

厚生労働省発行の大量調理施設衛生管理マニュアルでは、以下の手洗いのタイミングでは、2度洗いを実施するように記載があります。

・作業前とトイレの後
・汚染作業区域から非汚染作業区域に移動する場合
・食品に直接触れる作業にあたる直前
・微生物の汚染源となる可能性のある食品(生の食肉、魚介類、卵殻など)に触れた後、
 他の食品や器具に触れる場合
・配膳の前

これらのタイミングでは2度洗いを確実に行いましょう。

手洗い手順

作業中の手洗いは、下記手順のような洗い方でよいので、こまめに手を洗いましょう。

  1. 流水で手を洗う
  2. 手洗い用洗剤を手に取り泡立てる
  3. 手全体を洗う
  4. 手洗い用洗剤よく洗い流す
  5. 手をふき乾燥させる
  6. アルコールによる消毒

衛生的手洗いは環境の整備から

衛生的手洗いをするためには、衛生的手洗いが可能な環境を整えることが必須です。

「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)」では、手洗い設備について下記のように定められています。

  • 手洗い設備は、手指の洗浄と乾燥が適切にできるようにしておく
  • 手を洗うのに十分な水を供給している
  • 手洗い用洗剤、爪ブラシ、ペーパータオル、ゴミ箱、消毒剤などを備え、常に使用できる状態にしておく

手洗い設備を整えると同時に、手洗い前には以下の3つのことを確認しましょう。

  1. 爪を短く切ってあり、マニキュアはしていない
  2. 指輪や時計などは外してある
  3. 手指に傷や手荒れなどがない

設備が整っており、手洗い前の準備がされて、はじめて「衛生的手洗い」が可能となります。

手洗い設備の準備

手洗い設備は、各作業場の入口付近に設置する必要があります。手洗い時の水が食品にかかると、そこから汚染が広がる可能性があるため、食品を扱う場所と手洗い設備を離す設計にしたり、手洗い設備にステンレス製に飛散防止板を取り付けるなどの対策が必要です。

手洗い用のシンクは、可能であれば肘まで洗える大きさ、深さがあるものを設置しましょう。
手洗い用洗剤は、利き手でない手で使える場所(一般的に左側)に置くのが理想です。

アルコールは、ハンドフリーで使えるディスペンサーを設置すると二次汚染を防ぐことができます。もしくは、指や手のひらで触れずに使用しましょう。

ペーパータオルは、下から引き出せるホルダーに入れると、より衛生的です。
ペーパータオル廃棄用のゴミ箱は、手を触れずに開けられるフタつきのものが望まれます。

また、水道の栓は手を触れずに操作できるもの(センサー式、足踏み式、ひじ押し式など)で、冬でもしっかり手洗いができるように温水が出るものがよいです。

手洗い用洗剤の選び方

手洗い洗浄剤の成分として、「石けん」「合成洗剤」「複合洗剤」の3つがあります。

・石けん
純石けん(脂肪酸塩)の界面作用が主な洗浄作用。他の界面活性剤は含まない。

・合成洗剤
工業的に化学合成された界面活性剤が主な洗浄作用。

・複合石けん
石けんと合成洗剤を配合したもの。

食品を取り扱う現場では、次の3つの条件を満たしている製品が最適な手洗い用洗剤になります。

1.洗剤自体の汚染リスクが低いもの
まず、「石けん」と「合成洗剤」では、「石けん」の方が細菌が生き残りにくいという結果が出ています。
そのため、「石けん」を使用した方が、洗浄剤自体の汚染リスクを減すことができます。
ただし、固形石けんは、多くの人が触れるため汚染されやすいです。
液体の石けんを選びましょう。

2.洗浄効果が高いもの
手洗いの目的は、手の汚れや菌、ウイルスを落とすことです。
十分な洗浄効果が期待できる製品を選びましょう。
逆性石けんは、「石けん」という単語が入っていますが、洗浄効果はありません。

3.無香料のもの
手洗い用洗剤には、香りつきの製品も多く存在します。
しかし、香りつきの洗剤を使用すると手に香りが残り、その香りが食品に付着してしまうおそれがあります。
人体への害ははとんどありませんが、風味を損ねるおそれがあるため、無香料の製品を使いましょう。

また、ウイルスに効果の高いポビドンヨードを配合した製品や、肌に優しい成分が入った製品もあります。

ニイタカ
シャボネットモイスト

アルコールの効果と使い方

手洗いの目的はあくまでも「菌を落とすこと」であり、「殺菌」ではありません。しっかり手洗いをしたつもりでも菌が残っているおそれがあるので、手洗い後にはアルコール噴霧をし、残った菌を除去しましょう。

アルコールは、濃度が70%v/v程度のものが最も殺菌効果が高いです。一方、濃度が40%v/vを下回るとほとんど殺菌効果がなくなります。手洗い後に濡れた手でアルコールを噴霧すると、残った水でアルコール濃度が下がり殺菌効果が低下するので、必ず手を乾燥させてから使用しましょう。

アルコールの噴霧方法は、手の平を上に向け、指を立て、爪の間にもアルコールが浸透するように吹き付けましょう。一度の使用量は手の大きさによって変わりますが、乾燥するまでに15秒以上かかる量が必要です。

アルコールのディスペンサーは、手を触れずに使えるものだと、汚染を広げずに衛生的に使えます。もしくは、肘などを使い、洗った部位で触れずにアルコールを噴霧するようにしましょう。

ノロウイルスなどのノンエンベロープウイルスは、アルコールが効きにくいです。ノロウイルス対策として次亜塩素酸ナトリウムを薄めて手指消毒に使用している現場もありますが、手荒れの原因になるため、手指への使用は控えましょう。
現在では、ノンエンベロープウイルスの不活化を期待できる添加物を配合したアルコール製剤も出てきています。対策の一つとして使用を検討してみてはいかがでしょうか。

アルコールは万能ではありません。
手洗いをしっかりと行い、その補完としてアルコールを使うようにしましょう。

爪ブラシの管理方法と注意点

爪ブラシは、爪の間を洗浄するのに非常に便利なツールですが、管理を怠ると逆に汚染を広げてしまいます。

汚染を広げないために、爪ブラシは個人のものを準備しましょう。
一人当たり複数個用意し、当日一度使用したものは洗浄・消毒してから再使用しましょう。

爪ブラシの洗浄方法は、次の通りです。

  1. 中性洗剤を用いて揉み洗いし、流水ですすぐ
  2. 次亜塩素酸ナトリウム200ppm溶液に5分程度浸漬し、流水ですすぐ
  3. ホルダーなどに掛けて乾燥しやすい状態で保管する

毛先が広がったり、汚れがひどい場合は新しいものに交換しましょう。管理が難しい現場では、爪ブラシを使わない方が衛生的な場合もあります。爪ブラシをしっかり管理して、衛生レベルを上げましょう。

手の乾燥方法はペーパータオルがベスト

手の乾燥方法は、使い捨てのペーパータオルが望ましいです。

個人のハンカチなどは、ハンカチが汚染されていると洗浄後の手に汚染が広がってしまいます。また、ハンドドライヤー(エアータオル)は、風によって菌やウイルスが舞い上がる可能性があるので、使用は控えましょう。最近では、コロナウイルスの影響で使用を停止している施設も多く見られます。

ペーパータオルを使う際は、汚染が広がらないように下から取り出すタイプのホルダーに入れて使いましょう。使用後のペーパータオルを捨てるゴミ箱は、足踏み式など、手を触れずに開けられるフタつきのものが良いです。手で開けるタイプだと、せっかく洗った手が汚染されるおそれがあります。

ペール

衛生的手洗いの推進で食品汚染事故をゼロに!

手洗いは、食中毒予防の三原則のひとつ、菌を「つけない」の最重要項目になります。

まずは衛生的手洗いが実施できる環境を整えましょう。
そして衛生的手洗いの方法を全従業員に徹底させましょう。

手洗い方法とともに、手洗いをするタイミングについてもルールをつくり、徹底させましょう。一人の手洗い不足が食中毒事故を招きます。従業員全員が手洗いの重要性を意識し、日々の活動につなげていきましょう。

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