食品業界の人手不足の現状と影響
少子高齢化やコロナ禍の影響によって、さまざまな業界で労働人口が不足し、食品業界でも人手不足に頭を悩ませる企業が増えています。
2021年6月の「食品製造業における人手不足の実態調査」によると、食品製造業従事者206名のうち約75%の人が「人手が不足している」と回答。人手不足の理由として、「離職率が高い」「退職による欠員」「採用数の不足」などが挙げられています。
食品製造業の人出不足によって次のような問題も起こっています。
- 仕事を引き継げる人材がいない
- ミスやクレームの増加
- 業務・サービスの質の低下
- 労働災害の多発
- 従業員の時間外労働の増加・休暇取得の減少
- 現場の雰囲気の悪化
- 会社が新製品を出そうとしても現場が対応できない
人手不足に対して、多様な人材を活用したり、アウトソーシングしたり、業務プロセスを見直したりと、企業によって様々な対応策がとられています。
しかし、ロボットを導入している企業は、全体の約4割にとどまっており、まだまだ人の手で対応している状態です。
人手不足を解消!食品工場で使えるロボットを紹介
驚きの進化を遂げるロボット
食品の生産ラインは、季節によってメニューが変わり、同じ食材でも形が不定形で判別が難しく、ロボットによる自動化が難しいと言われてきました。
また、ロボットを導入できたとしても、設定するためにプログラミングなどの専門知識が必要で、ロボット操作に慣れていない現場では、余計な手間や時間が掛かってしまう問題がありました。
しかし、最新のロボットはこれまでの課題をクリアし、驚きの進化を遂げています。
この章では、人手不足を解消する食品工場用のロボットをご紹介します。
音声だけで設定ができる「ティーチングレスロボットシステム」
三菱電機は、業界で初めてとなる“声をかけるだけ”でロボットの動作プログラムを自動設定できる「ティーチングレスロボットシステム」を開発しました。
このシステムは下記のような特徴があります。
- これまで難しいと言われてきた盛り付けや仕分け作業の自動化を実現。
- 独自の音声認識AIを採用しており、ロボットに作業内容を覚えさせる「ティーチング」が不要に。
- 音声やタブレット操作で「何を・どこに・何個詰めて」といった指示で動かすことが可能に。
- 「もう少し下」といったあいまいな指示も理解が可能。
- 周囲の音が大きくなる工場内でも指示を正確に認識。
他にも細かい作業をスピーディーかつ正確にこなすため、作業時間を10分の1以下に短縮できると言われています。
食材に触れることができるアームロボット「MOTOMAN-GP8」
食品加工の現場では、食材の下処理・切り分け・加熱処理・調理・トレイ詰めなど、多くの工程で食材に直接触れなければなりません。そのような工程では、異物混入や汚染などに十分注意する必要があり、塗料が飛散するリスクのあるロボットの導入は進んでいませんでした。
安川電機では、特殊な表面処理と食品機械用の潤滑剤の採用により、食材に直接触れても問題ないアームロボット「MOTOMAN-GP8」を開発しました。
「MOTOMAN-GP8」は、塗料ではなく耐食性を向上させたメッキで表面処理を行っているため、塗装が剥がれる心配がなく、水やアルコール・洗浄液等の清掃にも対応しています。
また、ロボットの可動部などに塗布・充填する潤滑剤は、食品機械用の潤滑剤を使用しているので、万が一ラインに混入したとしても健康被害を最小限に抑えることができます。
人と並んで作業できる「Foodly」
株式会社アールティは、2022年3月より総菜企業3社に双腕人型ロボット「Foodly(フードリー)」を導入しました。
「Foodly」は、目元のカメラで食材を認識しながら、ばら積みされた唐揚げやミニトマトなどの総菜をひとつひとつピッキングし、弁当箱やトレイへの盛り付けまでの作業を1台で完結できます。
一番の特徴は、他の作業者と隣同士で作業できることで、一緒に作業する人に恐怖を与えないよう、人の動きに合わせた適度な作業スピードを保ちます。
また、作業中に人と接触しても、やわらかい制御でそのまま作業を続けることが可能です。
小型のため移動も楽にできて、設置工事も必要なく、すぐに導入ができるといったメリットもあります。
接客もおまかせ!飲食店で使えるロボットを紹介
飲食店にもロボット導入の動き
進化しているのは食品工場用のロボットだけではありません。
飲食店用のロボットの性能や見た目も大きく進化しています。
今後、飲食店でも導入の動きが広がると予想されるロボットをご紹介します。
見た目も可愛く生産力も高い「ソフトクリームロボット」
コネクテッドロボティクス株式会社が開発した「ソフトクリームロボット」は、ソフトクリームを巻いて提供するまでのプロセスが自動化できるロボットです。
このロボットを導入することで、1時間あたり最大133個のソフトクリームを提供できるので、お店の回転率がUPします。
また、量が均一のソフトクリームを作る事ができるので、原価管理も簡単になります。
牛や犬などの可愛い見た目とコミカルな動き、お客様への声掛けで、お店のPRに一役買う存在になるため、道の駅やサービスエリアなどでは既に導入されて、注目を集めています。
国内初「完全自動化ロボット食堂」の実験店舗の運営も
ロボットによる飲食店の「完全自動化」を目指す動きも始まっています。
川崎重工業とHCIは、2022年4月に大阪と東京の2ヶ所で、国内初となる「完全自動化ロボット食堂」の実現に向けた実験店舗の運営を開始しました。利用者は事前にスマートフォンを使い、来店時刻とメニューを選び、支払いを済ませたうえで予約を行います。
厨房では、川崎重工業製の小型ロボ「RS007L」がカレーやパスタなどのレトルト食品を湯煎機で加熱し、食器に盛り付けるまでの工程を行います。
完成した料理をサービスロボットが客席まで運び、利用者は受け取ります。食後は再び利用者が食器をロボットに載せます。
今後は自動化を進めて、補助は1~2人程度にすることを目指しており、人口の減少が進む過疎地では、飲食業を自動化することで、製造業などへの人材供給にもつながります。
ロボットによる完全自動化によって、地域経済の課題を解決することが期待されています。
食品業界の自動化がもたらす明るい未来
今回ご紹介したロボットのように、自動化が難しいとされてきた食品業界でも、技術が進化したことにより生産ラインや飲食店へ導入しやすくなってきました。
ロボットによる自動化が進むことで、人手不足の解消だけでなく、人為的なミスの削減、品質の安定性の向上も期待できます。
食品業界の人手不足を解消する動きはこれからも進み、ロボットを導入する企業はさらに増加していくでしょう。