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印刷の基本!印刷に使うインキはどのようなもの?

2023.03.17

印刷物におけるインキとは

印刷物において、「インク」のことを「インキ」と呼ぶことがあります。
実は「インキ」という言葉の由来は、英語のInkからではなく、江戸中期頃に蘭学を通じてオランダ語のInktが日本に導入されたのがきっかけだと言われています。

「インキ、インキト」は「阿蘭陀墨(オランダすみ)」とも呼ばれており、同時期にオランダから入ってきた「ペン」と同様に、当時の文献にかなり頻繁に登場しました。
 
現代では印刷業界の人は「インキ」、一般的には「インク」と呼ぶのが通例になっています。
インキには大きく分けて「筆記用」と「印刷用」の2種類がありますが、機能上も組成的に見ても大差があります。
 
筆記用は日常生活で使うため関心を持つ人が多いですが、印刷用はインキが使われている製品自体に馴染みはあっても、印刷用インキについての知識を持っている人はきっと少ないでしょう。
 
そこで、本記事では印刷用のインキについて解説いたします。

印刷機のインキは通常のインクとは違うの?

赤いインキ

通常筆記用に使うものと、印刷用インキにはどんな違いがあるのでしょうか?

インキとインクの境目が曖昧ではっきりしていないのが実情ですが、慣例的に印刷関係で用いるものを「インキ」、顔料や染料を含んだ液体状なら「インク」と使われることが多いようです。

印刷用のインキって何?

DTPデータの色を紙に再現する色材が印刷用インキです。
DTPとは、”Dest Top Publishing”の略で、パソコンで制作される印刷データのことです。
印刷用インキは、印刷方式、印刷面の素材・版式によって種類が異なります。
まずは、版式による印刷方式を次にまとめてみます。

印刷方法 版式 印刷例
オフセット印刷 平版 書籍・パンフレット・カタログ・チラシなど一般印刷
フレキソ印刷 凸版 段ボール・紙袋・牛乳パック
グラビア印刷 凹版 フィルム包装材・パッケージ・雑誌
スクリーン印刷 孔版 プラスチック箱・表示板・電子回路
デジタル印刷 無版 パンフレット・カタログ・チラシ
印刷方式:オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷

印刷インキと通常使うインクの違い

印刷用のインキは筆記用のインクより流動性が小さく、塗料と同程度の濃度を持つのが普通です。
つまり、インキとインクの大きな違いは「粘度」と言われています。
粘度の高いドロドロ状態のものが「インキ」で、逆に粘度の低いものが「インク」です。

主に油を媒体とする印刷インキに対し、筆記用インクは水を媒体としています。
わかりやすい例として、万年筆のインクは粘度が低く、水のようにサラサラしています。

インキの成分

印刷インキは、着色剤とワニス(ビヒクル)をベースにして、添加剤を補助的に追加して製造されています。

  • 着色剤(顔料/染料):インキの色を作る基本
  • ワニス:油脂類/天然油脂/合成樹脂等を溶剤に溶かしたもの→インキの転移/密着/光沢等が変化
  • 添加剤(補助剤):硬化剤/滑剤→印刷効果を調整する

インキの種類

印刷には装置や方式が種々あるため、それぞれに対応するインキが必要となります。
版式による分類では、平版インキ・フレキソ(樹脂凸版)インキ・グラビアインキ・スクリーンインキなどがあります。

平版インキ

  • 枚葉インキ:一般枚葉薄紙用インキ/カルトンインキ/金属印刷インキ
  • オフ輪インキ:ヒートセット/ノンヒートセットオフ輪インキ/ノンヒートセット新聞インキ
  • UVインキ
  • 新聞インキ

凸版インキ

  • 活版インキ
  • 凸版輪転インキ
  • ゴム凸版インキ

凹版インキ

  • 彫刻凹版用インキ
  • グラビア用インキ

孔版インキ

  • ステンシル用インキ
  • シルクスクリーン用インキ

用途による分類だと、ポスターインキや新聞インキなど多種揃っています。

また、インキ内の溶剤や硬化方式によって、水性インキ・紫外線硬化インキ・熱乾燥インキなどに分類されます。
他にも、下記などの特殊インクも多岐にわたって製造されています。

  • 耐光インキ:太陽光(紫外線)による退色の進行が少ない
  • 示温インキ:特定の温度帯で変温する
  • 磁性インキ:磁気を検出して文字の読み取りをする
  • 芳香ニスインキ:香りを出す
  • レジストインキ:プリント配線に用いる

オフセットインキ

オフセットインキは、水と油との反発特性を利用したうえで、版面上の画像や文字にいったんインキを付着させ、紙などへ移し取る式の一般的なインキです。
平版インキとも呼ばれ、日常的によく見かける紙の印刷物(教科書/書籍/雑誌/ポスター/カレンダー/チラシ/カタログ等)の大半に使われ、印刷業界で主要な役割を担っています。

オフセットインキは、顔料(有機/無機)、ワニス(合成樹脂/植物油/鉱油/粘度付与剤)、補助剤(皮膜強化剤/乾燥促進剤/乾燥抑制剤)の3つで構成されています。

赤いインキ

特色インキ

オフセット印刷では、プロセスインキ(カラー印刷)と特色インキに大別できます。
基本の4色がプロセスインキであるのに対し、特色インキは色調をより忠実に再現するために特別に調合したインキです。

印刷したい色になるようインキを調合し、プロセスカラーで表現可能な色幅を超えた印刷ができるだけでなく、金・銀・白・蛍光色・パール色などの色表現も実現できます。

UVインキ

油性インキは酸素と反応して固まる仕組みですが、UVインキは紫外線の光エネルギーで瞬時に硬化する特徴があります。

オフセット印刷で用いられる紫外線硬化型のインキで、枚葉インキの一種です。
速乾性が高いうえ、表面の皮膜も強度があり、さまざまな原反(加工前のロール状の紙)の印刷に使われて、着実に需要が伸びています。

特にコンビニエンスストアでよく見かける商品にUVインキは使用されていることが多いです。
例えば、カップ麺の容器、アイスクリームのカップ、牛乳の紙パック、ペットボトルのキャップ、歯磨き粉のチューブなど、身近な食品や日用品のパッケージに活用されています。
 
超速乾性により生産性が向上し、乾燥スペースが削減でき省エネにつながります。
また無溶剤なので安全性が高く、大気汚染防止になります。
ただし、高価格であるうえ瞬間硬化のため、油性インクほど光沢を出すことが難しいです。

印刷機・印刷物にはどのようにしてインキが使われているの?

印刷機を使った印刷に必要不可欠になるのが「版」です。
用紙に直接インキを吹き付けるのではなく、「版」に一度インキを付着させて用紙に転写します。
「版」は、わかりやすく言えばハンコのようなもので、画線部(インキが付く部分)と非画線部(インキが付かない部分)があります。

刷版の基礎(CTP Posiの原理)

印刷機から印刷物へのインキの仕様の仕方

カラー印刷では、CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)のそれぞれのインキが付いた
ハンコを用紙の同じ位置に1回ずつ押していくイメージです。
ハンコ自体が「版」で、朱肉が「インキ」、押印する書類が「被印刷体」です。

「版」の形状により、印刷機の印刷方式は5種類あります。
ここからは、5種類の印刷方式について解説します。

どのようにして印刷が行われてインキが使われるのか

平版や凸版印刷用には高粘度状に、グラビアやフレキソ印刷用には低粘度の液状に、スクリーン印刷用には中間の中粘度状に仕上げたインキを用います。

版式 印刷方法 特徴
平版印刷 ・版自体に凹凸を付けず、水と油の反発性を利用。・版についたインキを一度ブランケットに転写して、そのインキを用紙に転写。 平らな版・インキを紙へ間接的に転写
凸版印刷 ・凹凸のある版材の凸部にインクをつけて直接用紙に印刷。・フレキソ印刷が主流(段ボール/紙袋)。 ・最も歴史がある。・版が凹凸。 ・凸部にインクを付着。
凹版印刷 ・凹凸のある版材の凹部にインクをつけて印刷。・グラビア印刷(ペットボトルのラベルなどのフィルム包装が有名)のこと。 ・凸版印刷の反対・凹部(くぼみ)にインクを詰めて印刷。・くぼみの深さでインキ量の調整ができて豊かな濃淡表現ができる。
孔版印刷 ・版にあいている穴へインクを通過させて印刷。 ・ガリ版やシルクスクリーンも同様。・紙/布/金属/プラスチックや曲面も印刷できる。・近年は電子機器産業で活躍。

一例として、オフセット印刷機では、3〜4枚/秒で印刷紙が次々と積み重ねられます。
積まれた紙の裏が汚れないように、印刷したらすぐにインキ溶剤は素早く紙に浸透して、インキ皮膜は急速に硬く縮まる仕組みになっています。
そのため、重ねた紙の裏にインキがつかないので、インキを「セット」したと言います。

インキ内の油分が数時間以上で酸化して、完全乾燥します。
上記は全て有版印刷についてのまとめですが、デジタル印刷に代表される無版印刷も存在します。

無版印刷は「版」の代わりにパソコンで作成したデータを基に直接印刷する方式です。
版を作る工程や、印刷機への設置作業も要らず、短時間で印刷可能です。
また、バリアブル(可変)印刷が得意で、宛名印刷に向いています。
ただし印刷部数が多いほどコスト高のため、大量印刷には不向きです。

フレキソ印刷イメージ

原色CMYKの色の配合

CMYK

プロセスカラーである4色(*)を減色混合して色の配合を行います。
(*)シアン(C)マゼンタ(M)イエロー(Y)ブラック(K)のこと

それぞれの英語の綴りは、下記の通りです。
シアン…Cyan(青緑色)
マゼンタ… Magenta(赤紫色)
イエロー …Yellow(黄色)
ブラック… Black(黒色)
ブラックは「key plate(印刷版)」もしくは「Key Tone(キーとなる色調)」を略してKになったと言われています。

カラー写真原稿は、製版の段階でC、M、Y、Kの4色に分けられて、網点が入ったネガフィルムが作成されます。「4色分解」と呼ばれるステップですが、印刷の写真再現では、網点のサイズが大きいところが色が濃く、網点が小さければ淡い色になります。
 
CMYKの4つに分版され、印刷中は4色のインキが乾燥を待たずに高速に塗り重ねられていきます。
インキ色や粘度の強弱を考えて、K→C→M→Yの順に印刷されるのが基本です。
CとKは耐光性が強いのに対して、YとMの耐光性はなく太陽光に当たると10日ほどで褪色するので、超耐光性のYとMを使った方がいいと言われています。

インキの今後

インキのイメージ

経産省の生産動態統計によれば、印刷インキの国内出荷額は、2011年以降は3,000億円を少し下回る水準が続きました。
新聞インキが低迷している一方で、食品包装材などに用いられるグラビアインキは、個別包装化の普及により、需要が広がっています

同統計によると、2021年の印刷インキ出荷額は2.8%増加で2636億円となります。
内訳として、一般インキが2,519億円で3.4%増、グラビアインキが820億円(4.4%増)、新聞インキが117億円(9.0%減)などです。
 
インキは色々な製品の包装に幅広く用いられているため、包装業界の隆盛が世界的にも主な成長要因になっています。中でも、食品・飲料・化粧品などの分野は厳しい規制に従い詳細にわたるパッケージ記載が必須であるうえ、消費者の購入意欲を高めるためにも各メーカーが競ってユニークな包装に投資しています。
 
近年はネットによる商取引が活発になり、印刷インキの需要を一層底上げしているようです。
今後メディアのデジタル化が推進されると、印刷広告から電子メディアへどの程度移行するかが、この先の印刷インキ業界の鍵を握っていると考えられます。

現状のインキが環境に及ぼす影響

オフセット印刷用の油性インキについては、環境面で問題点が3つ考えられます。

  • 溶剤として使われる鉱物油にVOC(Volatile Organic Compounds 揮発性有機化合物)を含有
  • 樹脂内に環境ホルモンが含まれている
  • 鉱物に重金属が含有されている

特にインキ乾燥時VOCによる大気汚染が問題化した時点から、環境にやさしい植物油インキが注目されました。代表格が大豆油インキです。
さらにVOCを1%未満に抑え、代わりに植物油に置き換えたものがNON(ノン) VOCインキと総称されています。

今後環境配慮したインキの開発

印刷業会においても近年は「環境に関する基準」が整い始めています。
印刷用インキは、もともと天然物や石油化学製品などで造られた化学物質です。
環境問題を考慮して、最近では環境にやさしい石油化学製品や大豆油などを利用して開発が進められています。

他にも、新タイプのインキが使用され始めています。
亜麻仁油/米ぬか油/キリ油/ヤシ油/パーム油など非食用の植物油を使った環境対応型インキとして、ベジタブルオイルインキが注目を集めています。
 
インキは、石油系溶剤がVOC(揮発性有機化合物)にあたるため、各インキメーカーは石油系溶剤の含有量を抑制したうえで、乾燥性を維持できる代替物質の開発に努めています。
 
UVインキは、NON VOC(有機揮発性化合物を排出しない)のため、環境に対する配慮が十分なされています。同様に、LED-UVインキは、インキが乾燥する光の波長をLEDライト向けに開発されていて、従来のUVインキと比べて消費電力の節約につながります。

印刷の基本 インキについての要約

インキと印刷機

印刷用インキについて詳しくまとめてきました。
 
「版」「インキ」「紙(被印刷体)」が印刷の3要素であり、ある種「三種の神器」と呼ぶことができるでしょう。
 
印刷とは、わかりやすく言えば、版にインキをつけて紙に押して付着させることです。
版式や印刷方式が何種類もあるため、それぞれに応じてインキの種類も多種揃っていて、特色を生かしながら印刷文化が広がってきました。
 
印刷用インキは、プロセスカラーの4色CMYKを減色混合して色の調合を行います
さらに特色インキや特殊インクを活用して印刷の世界において色の表現の幅を拡大してきました。
 
包装印刷が重要視される風潮の中、デジタル印刷のウェイトも増え始めてきて、印刷の概念自体が時代と共に変化してきています。環境を配慮した印刷インクの開発も業界全体で推進しています。
 
今後も印刷用インキの動向に注目していきましょう。

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