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食中毒の原因で最も多いのは?食中毒の種類とその対策

2021.02.19

私たちの健康を脅かす食中毒

食中毒対策イメージ

食品や飲用水などを介して有害な微生物や化学物質を取り込み、健康被害が起こることを一般的に食中毒といいます。食中毒の原因となる原因は細菌やウイルス、寄生虫、化学物質など多岐にわたり、その特徴も異なります。

また、飲食店が提供した食品で食中毒が起きてしまうと、営業停止処分や、場合によっては営業禁止になってしまいます。
企業の信用問題にも直結するため、食中毒についての基礎的な知識と対策を学び、食中毒事故を起こさないように対策するのが重要です。

食中毒○○ランキング

まずは、食中毒の現状について解説します。
令和元年に発生した食中毒事故について、発生件数、患者数、発生場所ごとのランキングをまとめました。発生件数、患者数はあくまで国が報告を受けた数なので、実際の数はさらに多いと考えられます。

時代ごとに順位の変動はありますが、まずは食中毒の現状を知りましょう。

発生件数1位はアニサキス

令和元年の食中毒発生件数は1,061件で、そのうち328件(31%)がアニサキスによる食中毒です。
次いで、カンピロバクターの286件(27%)、ノロウイルスの212件(20%)となりました。
上位3種類の原因だけで、実に8割弱を占めています。

令和元年原因別食中毒事故発生件数

<参考>厚生労働省ホームページ

患者数1位はノロウイルス

令和元年の食中毒患者数は13,018人で、そのうち6,889人(53%)がノロウイルスによる食中毒です。患者のうち、2人に1人がノロウイルスにかかっているという事になります。

次いで、カンピロバクターの1,937人(15%)、ウェルシュ菌の1,166人(9%)と続きます。
ウェルシュ菌は発生件数が22件と少ないですが、一度当たりの患者数が多く、一度の食中毒事故で平均53人が発症するという計算になりました。

令和元年原因別食中毒事故患者数

<参考>厚生労働省ホームページ

発生場所1位は飲食店

食中毒事故が発生した施設別に見ると、発生件数1,061件のうち、580件(55%)が飲食店で起きています。飲食店における患者数は7,288人で、事故1件あたりの患者数は12.6人とそこまで多くありません。

一方、食品工場における発生件数は13件(1%)と少ないですが、患者数は871人と非常に多く、1件あたり平均67人が発症しています。食品工場などの大量調理施設は、一度食中毒事故が起きると規模が大きくなる傾向にあるので、より一層の衛生管理が求められます。

令和元年場所別食中毒事故発生件数

<参考>厚生労働省ホームページ

食中毒の種類

食中毒腹痛イメージ

食中毒の原因は、大きく分けると微生物、化学物質、自然毒、寄生虫の4つに分けられます。
ここからは、食中毒の原因ごとに特徴や対策を解説していきます。
※()内の順位は令和元年の順位になります。

微生物による食中毒

微生物による食中毒の最大の特徴は、温度管理によって大幅にリスクを低減できるという点です。

例えば、食中毒細菌の多くは75℃1分加熱で、ノロウイルスは90℃90秒加熱で死滅します。
反対に、温度管理を怠ると、食中毒の発生リスクは非常に高まります。
食中毒細菌は調理中でも温度、水分、栄養の3要素が整えば増殖していくため、常に温度管理を意識することが大切です。

食中毒を引き起こす微生物は、食中毒細菌、ウイルス(※)、真菌、原虫類に分けられますが、ここでは主な食中毒細菌8種と、ノロウイルス(ウイルス)の特徴と対策を解説します。
※ウイルスは正確には生物ではありませんが、本記事では微生物として扱っています。

腸管出血性大腸菌(事件数9位、患者数12位)

主に牛の腸内に生息しており、O157、O111、O26など、多くの血清型が存在します。
わずか50~100個の少ない菌数で発症することが特徴です。HUS(溶血性尿毒症症候群)を引き起こし、死亡する場合もあります。

実際に、食中毒による死亡事例は、腸管出血性大腸菌によるものが最も多いです。

主な原因食品:食肉製品、食肉などから二次汚染された食材、井戸水
潜伏期間:2~5日
症状:下痢、嘔吐、発熱、血便、腹痛など
対策:加熱殺菌(中心温度75℃1分以上)、生野菜はよく洗浄する。食肉にふれた手指や調理器具はその都度洗浄・消毒し、食肉と他の食品が触れないようにする。
事例:1996年に大阪府堺市の学校給食で、大根が原因食料と考えられるO157による集団食中毒事故が発生し、患者数は9,000人を超え、3人が死亡しました。また、2011年に富山県など4県の焼肉チェーン店で、ユッケが原因と考えられるO111による集団食中毒事故が発生し、患者数181人のうち、5人が死亡しました。

カンピロバクター(事件数2位、患者数2位)

牛や豚、鶏の腸内に生息し、100個程度の少ない菌数で発症するのが特徴です。
細菌性食中毒の中では最も発生件数が多く、令和元年では細菌性食中毒385件のうち、カンピロバクターによるものは286件と、約75%の割合を占めました。

事故のほとんどが鶏肉の加熱不足により発生しています。稀に合併症として四肢や顔、呼吸器官などに麻痺などが起こるギラン・バレー症候群などを起こす場合があります。

主な原因食品:鶏肉の生食、鶏肉などから二次汚染された食材、井戸水
潜伏期間:2~5日
症状:下痢、嘔吐、発熱、腹痛、筋肉痛、悪寒など
対策:加熱殺菌(中心温度75℃1分以上)、生野菜はよく洗浄する。食肉にふれた手指や調理器具はその都度洗浄・消毒し、食肉と他の食品が触れないようにする。
事例:2015年に北海道栗山町の焼肉店で、14人がカンピロバクターによる食中毒を発症し、1人が死亡しました。ビュッフェ形式の焼肉店で、加熱用の生肉の下に生食用のサラダが配置されていました。

サルモネラ属菌 (事件数8位、患者数4位)

動物の腸管内や自然界に広く生息し、これまでに2,500種以上の血清型が発見されています。
食肉や卵以外にも、ネズミ、ハエ、ゴキブリや、は虫類などのペット、汚染された水から感染する場合もあります。

1998年には、サルモネラ属菌対策として食品衛生法が改正され、鶏卵の表示基準、液卵の規格基準が定められました。

主な原因食品:鶏卵(加工品含む)、食肉(加工品含む)
潜伏期間:5~72時間
症状:下痢、嘔吐、発熱、腹痛、悪心など
対策:加熱殺菌(中心温度75℃1分以上)。食肉などは低温管理する。卵の割り置きはしない。食肉にふれた手指や調理器具はその都度洗浄・消毒し、食肉と他の食品が触れないようにする。
事例:2007年に静岡県内の仕出し屋で調理された弁当を喫食した9,844人のうち、1,148人がサルモネラ属菌食中毒を発症しました。

黄色ブドウ球菌(事件数6位、患者数5位)

黄色ブドウ球菌はヒトや動物の皮膚、鼻孔、のどなどに常在しており、健康な人でも保持しています。特に、化膿した傷口に多く潜んでいます。

菌自体は加熱に弱いですが、増殖する時に熱・乾燥・胃酸に強いエンテロトキシンという毒素を産出します。

潜伏期間:1~5時間
症状:嘔吐、腹痛、吐き気など
対策:手に傷がある人や手荒れしている人は調理作業に従事しない。手洗いを徹底する。食品を低温保存する(10℃以下)。
事例:2000年に雪印乳業大樹工場で製造された脱脂粉乳にエンテロトキシンが含まれており、全国で13,420人が食中毒を発症しました。工場が3時間停電し、タンク内の脱脂乳が温められて黄色ブドウ球菌が増殖し、大量の毒素が産出されました。本来は廃棄しなければなりませんが、再加熱して出荷したことにより事故が発生しました。
※再加熱により菌は死滅しますが、毒素は残存します。

腸炎ビブリオ(順位なし)

海水や海産魚介類に生息し、好塩性(塩分濃度3%前後)で海水温が20℃を超えると爆発的増殖します。一方、真水に弱く、4℃以下ではほとんど増殖しません。

かつては日本における食中毒の発生原因No.1でしたが、魚介類の洗浄や温度管理が徹底されるようになり、発生件数が激減しました。

主な原因食品:魚介類の生食、二次汚染された食材
潜伏期間:8~24時間
症状:下痢、嘔吐、発熱、腹痛、吐き気など
対策:魚介類は真水でよく洗う。加熱殺菌(中心温度75℃1分以上)。魚介類は短時間でも室温で放置せず、低温管理する。魚介類にふれた手指や調理器具はその都度洗浄・消毒し、魚介類と他の食品が触れないようにする。
事例:1950年に大阪で患者数272人、死者20人に上る「シラス干し」食中毒事件が発生しました。

ボツリヌス菌(順位なし)

土の中など自然界に広く生息し、運動神経を麻痺させる毒素を産出します。
神経毒素は80℃以上30分以上、または100℃数分以上の加熱で失活できますが、ボツリヌス菌自体は熱に強い芽胞を形成し、通常の加熱では死滅しません。

嫌気性のため、缶詰などの酸素がない環境で増殖します。
缶詰が膨張している場合は、中で菌が増殖している可能性が高いです。蜂蜜も内部が無酸素状態になりやすく、1歳未満の乳児に蜂蜜を与えることで乳児ボツリヌス症が発生する事例もあります。

主な原因食品:ハム・ソーセージ、瓶詰、缶詰、真空包装食品、レトルト食品、蜂蜜など
潜伏期間:8~36時間
症状:脱力感、倦怠感、頭痛、めまい、言語障害、嚥下障害、呼吸困難など(致死率が高い)
対策:加熱・加圧殺菌(中心温度120℃4分以上)。新鮮な材料を使用し、洗浄・消毒を行う。食品内をボツリヌス菌が増殖できない環境(pH4.6以下、水分活性0.94未満)にする。加熱後の食品を急冷、低温保存する(10℃以下)。乳児に蜂蜜を与えない。
事例:1984年に熊本県で製造された「からし蓮根」を喫食し、患者数38人のうち11人が死亡する食中毒事故が発生しました。おみやげ用の商品だったため、被害は13都県と広範囲ににわたりました。

セレウス菌(事件数14位、患者数9位)

土や水の中など自然界に広く存在し、農産物を汚染します。食品中で増殖する際に毒素を作り、毒素の種類によって嘔吐型と下痢型に分かれます。日本ではほとんどのセレウス菌が嘔吐型です。

熱に強い芽胞を形成し、通常の加熱では死滅しません。

主な原因食品:[嘔吐型]米や小麦が原料の食品(チャーハン、パスタなど)
       [下痢型]食肉などが原料の食品(スープなど)
潜伏期間:[嘔吐型]1~5時間
     [下痢型]8~16時間
症状:吐き気、嘔吐、腹痛、下痢
対策:一度に大量の米飯、麺類を調理し、作り置きをしない。調理後は保温庫で保管するか、小分けして速やかに低温保存する(10℃以下)。
事例:2016年に東京都内でおにぎり弁当を喫食した110名のうち、67名がセレウス菌による食中毒を発症しました。

ウェルシュ菌(事件数7位、患者数3位)

土や水の中など自然界に広く存在し、人の腸管内にも生息しています。

熱に強い芽胞を形成し、通常の加熱では死滅しません。
また、嫌気性のため、酸素のある条件下では増殖できません。

主な原因食品:カレー、スープ、煮物などの大量調理食品
潜伏期間:6~18時間
症状:腹痛、下痢、腹部膨張感など
対策:再加熱する際は、中心まで十分に加熱する(75℃1分以上)。前日調理をしない。調理後は保温庫で保管する(55℃以上)か、小分けして速やかに低温保存する(10℃以下)。
事例:2011年に大阪府堺市の大阪刑務所で給食を喫食した2,569人のうち、1,037人がウェルシュ菌による食中毒を発症しました。

ノロウイルス(事件数3位、患者数1位)

一度の事故における患者数が多いのが特徴で、令和元年では事故発生件数が全体の約2割だったのに対し、患者数は半数以上がノロウイルスでした。
従来、牡蠣などの二枚貝を喫食することで事故が発生していましたが、現在ではヒトの糞便や嘔吐物を介して、ヒトからヒトへ感染するケースが多いです。

ウイルス数個程度で発症する場合もあり、乾燥、低温、加熱、アルコール消毒にも強い非常に厄介なウイルスです。

主な原因食品:二枚貝(牡蠣)、ノロウイルスに感染した調理従事者が汚染した食品
潜伏期間:24~48時間
症状:腹痛、下痢、発熱、嘔吐、吐き気
対策:加熱殺菌(中心温度90℃90秒以上)。従業員の健康管理を徹底し、特に下痢などの症状がある人は調理作業に従事させない。手洗いの徹底、調理器具の洗浄・消毒。嘔吐物の適切な処理(次亜塩素酸ナトリウム1,000ppm)。トイレの定期的な洗浄・消毒。
事例:2017年、大阪市で加工された刻みのりが原因で、4都府県の2,094人がノロウイルスに感染しました。加工者は当日体調不良を訴えていましたが、手袋などを着用せずに作業を行っていました。

化学物質による食中毒 (事件数12位、患者数9位)

化学物質による食中毒は、ヒスタミンやアレルゲンなど、もともと自然に存在するものと、食品添加物や洗剤など、人工的に作られたものがあります。

化学物質は微生物と異なり、加熱によってなくなることはありません。
使用する食品にどんな化学物質が含まれているか、添加剤や洗剤の使用方法は問題ないかを必ず確認しましょう。

ヒスタミン

赤身魚にはアミノ酸の一種であるヒスチジンを多く含んでいます。
魚の死後、表面や内臓に生息する微生物が増殖することで酵素を産生し、その酵素とヒスチジンが反応することで、人体に有害なヒスタミンに変化します。

一度作られたヒスタミンは取り除くことができないので、常に生魚を低温管理することが重要です。呼吸困難や意識不明になることもありますが、死亡例はありません。

主な原因食品:赤身魚とその加工品
潜伏期間:数分~1時間
症状:顔面(特に口周りや耳たぶ)の紅潮、じんましん、発熱、頭痛、嘔吐、下痢、呼吸困難など
対策:生の赤身魚は常温放置しない。干物などの加工品も低温管理する。冷凍赤身魚の解凍は低温で短時間のうちに行う。冷凍魚を再冷凍しない。
事例:2004年に石川県松任市の保育所で、サワラ(マカジキ)の甘酢あんかけを喫食した298名のうち、54名が発症しました。原料を仕入れた鮮魚店では温度計が故障していました。

食物アレルゲン

食物アレルギーは、特定の食物に含まれるアレルゲン(アレルギーの原因物質)を摂取することで、免疫が過剰に反応し、皮膚や粘膜、呼吸器、消化器などに炎症をおこすものです。

命の危険を伴うアナフィラキシーショックを起こす場合もあります。
アレルゲンのほとんどはタンパク質で、加熱工程によってなくすことはできません。

主な原因食品:アレルゲンを含む食品(個人による)
潜伏期間:数分~1時間
症状:皮膚症状(じんましん、かゆみ、湿疹など)、粘膜症状(目の充血、腫れ、かゆみなど)、呼吸器症状(鼻水、咳、呼吸困難など)、消化器症状(腹痛、下痢、嘔吐など)、神経症状(頭痛、だるさなど)、全身症状(血圧低下、意識低下、アナフィラキシーショックなど)
対策:アレルギー表示を徹底する(特定原材料の表示は義務)。洗浄の徹底やカラーコントロールなどの交差汚染対策。
事例:2012年に東京都調布市の小学校で、生徒がおかわりを求めた際に誤って食べられない食材(じゃがいものチヂミに含まれる「粉チーズ」)を提供し、死亡しました。

洗剤などの混入

洗剤や消毒剤、殺虫剤などの薬品が誤って食品に混入してしまい、食中毒事故が発生するケースがたびたび発生しています。

原因の多くは、食品容器と洗剤容器が似ている、食品の空容器に洗剤を詰め替えて使用、食品と洗剤の保管場所が同じ、洗剤の内容物が未記載などによる誤使用です。
また、鉛やヒ素、メチルアルコールといった人体に有害な化学物質が食品に混入して事故が発生したケースもあります。

対策:食品と洗剤類の保管場所を分け、調理場内には必要外の洗剤類を置かない。洗剤類は専用の詰め替え容器に入れ、必ず中身を記載する。危険な薬品は鍵付きのラックで保管する。
事例:飲食店で、ペットボトルに入れていた次亜塩素酸ナトリウムを日本酒と間違えてお客様に提供し、誤飲による事故が発生しました。

自然毒による食中毒

動物性:事件数4位、患者数14位 植物性:事件数5位、患者数15位

動植物がもともと持っている有害物質と、食物連鎖によって毒化した魚介などの毒をまとめて自然毒といいます。自然毒には植物性自然毒と動物性自然毒があり、両自然毒とも化学物質と同じく、加熱処理では分解できません。

自然毒による食中毒は、家庭内での発生が多いのが特徴です。
動物性自然毒のほとんどはフグ毒による食中毒事故です。フグを調理する際は、調理する人、施設に資格や許可が必要です。
植物性自然毒はキノコによる食中毒が最多ですが、ジャガイモの芽(ソラニン)や食べられる植物に似ている有毒植物の誤食による食中毒事故も少なくありません。

事例:2007年に岩手県の農産物販売施設で購入したキノコを喫食した家族3人が、喫食後嘔吐の症状を呈しました。

寄生虫による食中毒

寄生虫には、生鮮魚介類から感染するものと、獣肉などその他の食品から感染するものがありますが、ほとんどの事例が生鮮魚介類から感染する寄生虫です。
特に日本では、生鮮食品の生食文化が発達しているので、その傾向が大きいです。

寄生虫は肉眼で視認することができ、また、加熱や冷凍によっても死滅するので、生食は避けるか、生食の場合は取り除くことが大切です。

アニサキス(事件数1位、患者数7位)

日本における食中毒の原因で最も多いのがアニサキスです。アニサキスは半透明白色で体長が2~4cmほどのひも状の寄生虫で、サバやアジ、カツオ、イカなどの様々な魚介類に寄生しています。

魚介類を生(または生に近い状態)のまま食べると、アニサキスが胃や腸壁に侵入して胃腸炎をおこします。加熱や冷凍で死にますが、調理で使用する程度のワサビ、しょうゆ、酢などでは死にません。

主な原因食品:魚介類の生食、シメサバなどの未加熱の加工品
潜伏期間:1~8時間
症状:腹痛、悪心、嘔吐、腹膜炎、アレルギー反応によるじんましんなど
対策:目視で取り除く。加熱調理(60℃1分以上)。-20℃で24時間以上の冷凍。
事例:2005年、中国産中間種苗由来の養殖カンパチに高頻度でアニサキス幼虫の寄生が確認され、200万匹もの対象魚に緊急措置が取られました。※人体症例の発生は未然に防がれました。

食中毒予防の三原則「つけない」「増やさない」「なくす」

衛生的な厨房での調理イメージ

食中毒予防の三原則は、「つけない」「増やさない」「なくす」です。

まずは、食中毒の原因となるものを食品に「つけない」こと。また、食品についてしまった場合も、原因となるものを「増やさない」、そして「なくす」ことが大切です。
また、そもそも現場内に原因となるものを「持ち込まない」ことも重要なポイントになります。

この章では、食中毒予防の三原則に沿って対策を解説していきます。

「つけない」予防

安全な水・原材料を使う

食中毒予防の第一歩は、安全な水や原材料を使うことから始まります。どれだけ衛生管理を徹底しても、使用する食材が汚染されていては意味がありません。
仕入れ業者の衛生管理状況を確認したり、使用水の残留塩素濃度の確認をするなどして、食中毒の原因物質を持ち込まない・つけないようにしましょう。

5S管理

5S管理とは、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「習慣の頭文字をとったもので、食品衛生の全てのベースとなるものです。

5S管理を行うことで、ほかの食中毒対策がよりスムーズにできるようになり、効果も高まります。
まだ衛生管理ができていない事業所は、5S管理から取り組むようにしましょう。
※「躾(しつけ)」とする場合もあります。

整理:必要か不要かを判断し、不要なものは捨てる

目安として、1年以上使ってない物は捨てるようにしましょう。
また、使用頻度が1年に1回程度のものは、作業場から出すという判断も必要です。
作業スペースが広ければ広いほど、それだけで衛生的に作業ができます。

整頓:必要なものがすぐに取り出せるように、物を置く場所と数量を決め、表示する

定位置、定量管理を心がけましょう。
置き場所がわかっていれば、使いたいものがすぐに取り出せ、作業効率も上がります。
また、表示をすることで、慣れない従業員でも紛失を防ぎやすくなります。

ここで、整理整頓の効果を見てみましょう。
下の図は、ペン立てにペンが入っている様子です。

整理整頓されていないペン立ての例

右の画像は左の画像よりペンが1本少ないですが、どのペンがなくなったかすぐに判断ができません。
右の画像では、左後ろの赤のマジックペンが1本なくなっています。

次に、下の画像を見てください。

整理整頓されているペン立ての例

今度は赤のマジックペンが1本足りないのがすぐわかります。
何色のペンが何本あるかが表示されているので、誰が見てもペンが足りない事が判断できます。
整理整頓することが衛生的な現場づくりの第一歩となります。

清掃:目に見える汚れやホコリを取り除き、設備の点検をする

まずは汚れやホコリを取り除くことが清掃の第一歩です。
汚れは菌の繁殖や虫の発生に繋がり、ホコリやゴミが食品の中に入って異物混入となる恐れがあります。汚れなどの有機物が残っていると、次亜塩素酸ナトリウムなどの薬剤が効きにくくなってしまうので、確実に除去しましょう。

また、清掃の際には、機械に異常がないか、部品などが緩んでいないかも同時にチェックします。
機械の点検をすることで、労災事故防止や異物混入対策にもなります。

清潔:ルールを決めて、目に見えない汚れや細菌を洗浄・殺菌し、衛生的な現場を保つ

目に見えない菌などは、存在しているかどうかの判断が難しいです。ルールを決め、全員がその通りに洗浄・殺菌しましょう。
個人のやり方で洗浄・殺菌すると、洗い残しや殺菌不足に繋がります。ルール通りに行うことで、確実に洗浄・殺菌ができ、食品事故防止や製品の品質向上に繋がります。

整理、整頓、清掃もルールとして取り決め、実行しましょう。
作成したルールは文章や画像などで「見える化」し、誰でも行えるようにすると良いです。

習慣:ルール通り実行し、記録をつける

全員がルール通り実行することで、作業の効率化につながり、また、漏れも少なくなります。
ルール通りが当たり前=習慣となれば、衛生レベルは確実に向上します。

また、就業前に従業員の健康状態も記録しましょう。
健康状態を把握しておけば、食中毒のリスクを減らすことができます。
また、手指にケガがないかなども確認しましょう。

5S管理については、こちらの動画でも解説していますのであわせてご覧ください。

手洗いの徹底

飲食店の手洗いイメージ

手洗いは食中毒予防の三原則「つけない」の最重要項目です。健康な人の手にも、非常に多くの菌が常在しています。手袋をするからと言って、すべての汚染を食い止められるわけではありません。作業前、トイレの後、休憩後、作業の変更時など、必要に応じて手洗いを行い、食品に菌を付けないようにしましょう。

正しい手洗い方法は、こちらの記事で解説しています。

色分け管理

色分け管理は、交差汚染を防ぐための大切なポイントです。食中毒予防の三原則では、「つけない」の部分にあたります。

例えば、生肉用の調理器具と野菜用の調理器具の色を分けることで、生肉に付着している食中毒菌を野菜につけないようにすることができます。
また、汚染区、準清潔区、清潔区で作業服の色を分けることで、汚染区の従業員が清潔区に入ってこない環境づくりができ、汚染の広がりを未然に防げます。
アレルゲンを含む製品と含まない製品を同じ工場で製造している場合も色分け管理が重要です。アレルゲンは加熱してもなくならないため、すべての工程で交差接触しないように対策が必要となります。

最近では、より詳細な色分け管理ができるように、定番の赤・青・黄・緑・白に加え、紫・オレンジ・ピンクといったカラーラインナップのブラシも出てきています。

ヴァイカンカラーブラシ

「増やさない」「なくす」予防

温度管理

温度管理は食中毒予防の三原則において、「増やさない」「なくす」の最重要ポイントです。
特に、食中毒菌による食中毒事故の多くが、温度管理が甘かったために起きています。

「増やさない」温度管理

食中毒の原因のうち、食中毒菌は食品中で増殖することで事故発生につながります。
特に、加熱工程のない食品や、加熱工程後も生き残る芽胞菌はいかに増やさないかが食中毒防止の鍵となります。

菌は温度帯によって増殖速度が変わります。ほとんどの菌は10℃~60℃の温度帯でよく増殖し、最も増殖速度が大きいのが35 ℃近辺です。
そのため、汚染された食品を常温で放置すると菌は爆発的に増えていきます。反対に、10℃~60℃の温度帯を外せば、菌の増殖は抑えることができます。

温度帯別増殖速度
「増やさない」保管

食品を保管する時は10℃以下で低温保管をするか、保温庫で60℃以上になるように保管をしましょう。

冷蔵庫や冷凍庫は、定期的に温度を確認し、基準を超えてないかをチェックし、記録をとることが必要です。データロガーを使えば、連続的に温度をモニタリングすることができて便利です。

温度ロガー
「増やさない」冷却

加熱後の食品も常温冷却すると生き残った菌が増殖してしまうので、冷蔵庫で冷却するなどして、素早く温度を下げることが重要です。

厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルでは、『加熱調理後、食品を冷却する場合には、病原菌の発育至適温度帯(約20℃~50℃)の時間を可能な限り短くするため、冷却機を用いたり、清潔な場所で衛生的な容器に小分けするなどして、30分以内に中心温度を20℃付近(または60分以内に中心温度を10℃付近)まで下げる。』と決められています。
カレーやチャーハンなど、芽胞菌の存在が考えられる食品では特に気を付けましょう。

「増やさない」解凍

冷凍食品を解凍する場合も、常温で解凍すると解凍中に菌が増殖します。
冷蔵庫内や冷水に浸けるなど、低温で解凍するようにしましょう。

「なくす」温度管理

調理工程において、加熱工程は食中毒菌を直接「なくす」ことのできる最後の砦といえます。加熱温度が低く、菌が残存したために起こってしまった事故は非常に多いです。

食中毒菌を死滅させるには、適正な温度と適正な時間がポイントです。
ほとんどの菌は、中心温度75℃1分以上の加熱で死滅させることができます。
カキフライなど、ノロウイルスが存在するおそれのある食品に関しては、中心温度90℃90秒以上の加熱が必要です。

芽胞を形成する菌は、通常の加熱工程では死滅しませんが、加熱+加圧のレトルト殺菌(120℃4分以上)することで死滅します。レトルト食品では芽胞菌も含めた食中毒菌を死滅できる温度管理が必要です。

温度管理については、こちらの動画でも解説していますのでご覧ください。

施設設備・機械器具の衛生管理

施設設備・機械器具は清潔に保つようにしましょう。
機械器具の洗浄不足により、他の食品に汚染が広がるおそれがあります。食品に直接触れる器具は、アルコール噴霧や次亜塩素酸ナトリウムの漬け込みなどの消毒作業も欠かさず実施しましょう。

また、機械が故障していないかのチェックも定期的に必要です。きちんと加熱できているか、保管温度は適正か、部品が欠けたりしていないか、頻度を決めて確認しましょう。
施設設備が不衛生だと、カビの発生や虫の侵入につながります。隅々まで洗浄できているか、虫やネズミが侵入する隙間はないかなどをチェックし、なるべくドライな環境づくりをしましょう。

従業員教育

従業員教育は、「つけない」「増やさない」「なくす」のすべてに関わります。
どれだけルールがしっかりしていても、実際に行動するのは従業員です。ルールを守らなければ食中毒を発生させてしまうことをしっかりと周知させ、従業員の衛生レベルを底上げすることが大切です。

新人が入った際の新人研修はもちろん実施しなくてはいけませんが、ベテランの従業員向けにも定期的な教育が必要です。ベテランの従業員の中には、今まで問題が起きなかったからと、自分のやり方で作業をする人もいます。1年に1回は従業員教育の場を設け、衛生管理の重要性を落とし込みましょう。

食中毒対策を徹底して事故をゼロに

厨房の衛生管理イメージ

今回は、食中毒についての基本的な知識とその対策について解説しました。
発生事例や患者数が多いものから、発生件数は少ないですが、重篤な症状を呈するものまで様々な食中毒があります。

食中毒の原因ごとに細かい対策は変わってきますが、「つけない」「増やさない」「なくす」の三原則が基本の対策です。確実に食中毒対策を実施し、食中毒事故を起こさないようにしましょう。

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