古紙市場の動向と世界の古紙不足について解説

近年、古紙を取り巻く環境は大きく変化しています。
日本では古紙回収の仕組みが確立されていますが、紙からデジタル化への移行や新型コロナウイルスの流行に伴うライフスタイルの変化によって、紙の生産量は減少しています。

その結果として、古紙の発生量自体も減少傾向にあります。
また世界に目を向けると、中国では古紙の輸入を全面的に禁止、ロシアのウクライナ侵攻によって新聞古紙の不足が深刻化するなど、古紙市場全体に大きな影響が及んでいます。

今回の記事では、日本の古紙リサイクルの実態やリサイクルの流れ、また激変する古紙市場の動向について解説します。

実は日本の古紙リサイクルは回収率・利用率ともに世界トップクラスを誇っており、まさに「リサイクル先進国」と言えます。
ここからは、日本の古紙リサイクルの実態について、各国との比較も交えながら具体的な数字で確認していきましょう。

日本の2021年の古紙回収率は81.1%で世界的に見ても高い水準に達しています。
1970年当初の古紙回収率は40%弱でしたが、ごみ減量施策や集団回収、行政の資源回収の拡大などを経て、現在の回収率になっているのです。

1970年当初の古紙利用率は34%程でしたが、きちんとした分別によって高品質の古紙を維持し、古紙問屋や製紙会社などの努力によって、現在は約66%にまで達しています。

日本の2021年の古紙輸出量は237万トンとなっています。
2000年以前は回収された古紙はほぼ国内で消費されていましたが、2000年以降、古紙回収量が国内消費量を上回るようになりました。
ちょうどその時期から中国をはじめ、東南アジアの各国で製紙産業が盛んになり、各国内で賄えない古紙を日本や欧米から輸入するようになりました。

国内で消費されない古紙は海外に輸出され、世界の紙リサイクルを支えるようになっています。
回収した古紙のうち、約80%が国内で消費、約20%が海外で消費されています。

古紙輸出シェア(%)

ここまでは日本の古紙リサイクルは世界トップクラスということを紹介しました。
では、資源回収などで排出した古紙はどのような工程を経て再び製品となって私たちの手元に届けられるのでしょうか？

ここからは古紙のリサイクル工程について解説します。

まずは古紙リサイクルの流れを順に解説していきます。
 
①家庭・事業所
家庭や事業所などから排出された古紙が回収され、車両に積み込まれて古紙問屋に運ばれます。
古紙は品質や特徴に応じてそれぞれ異なる紙の原料に使用されるため、新聞、段ボール、雑誌、飲料用パック等それぞれ分別しなければなりません。
例えば、新聞は新聞用紙やコピー用紙を作る原料に使われ、雑誌は菓子箱や雑誌、段ボール箱を作る原料に使われます。

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②古紙問屋
到着した古紙は種類ごとに分別し、梱包機(べーラー)で重さ約1トンに圧縮梱包されます。
商品となった古紙は製紙工場へ出荷され、一部は輸出されます。

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③製紙工場
製紙工場に搬入された古紙は、後述で解説する工程でシート状に形成され、ローラで巻き取ったり、一定の大きさに断裁して製品となります。

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④紙加工工場
製紙工場で生産された古紙パルプを使った紙・板紙は、紙加工工場でさまざまな紙製品に加工され、小売店などで販売されます。

製紙工場では、一般的に下記の各工程で古紙パルプを製造します。

ここからは各工程について順に紹介していきます。

古紙を、温水と薬品の入ったパルパー(古紙を溶解させる大きな釜)に入れ、どろどろにほぐします。パルパーに古紙と温水、脱墨剤(インク除去剤)などの薬品を入れてかき混ぜ、古紙をどろどろにすることで、繊維からインクを剥がしやすくします。この段階で大きなごみを取り除きます。

どろどろになった古紙をスクリーンに通し、ごみやチリを除きます。
網目になったスリットを通過させることで、ごみや細かいチリを取り除きます。

フローテーターと呼ばれる装置を使って洗剤の泡と一緒にインクや塗料を取り除きます。
洗剤を入れ、細かな空気の泡を送り込み、剥がれたインクを泡と一緒に浮かせて取り除きます。
インク、塗料、填料が取り除かれ、繊維だけが残ります。

得られた古紙パルプから紙・板紙を製造します。
古紙パルプのみで製造することもあれば、木材パルプと配合して製造することもありますが、ローラで巻き取ったり、平判に断裁して製品となります。

これまで日本の古紙輸出量の半数以上は中国が占めていました。
しかし、世界全体で環境問題への関心が高まるなか、中国でも「環境改善」が政策目標として掲げられ、輸入古紙に対する規制強化に乗り出したことで、古紙を取り巻く市場は大きく変化しました。

また、デジタル化への移行やロシアのウクライナ侵攻などの世界情勢によって古紙不足が深刻化しており、私たちの生活にも影響が及んでいます。

ここからは、そんな古紙市場の動向について解説します。

2018年、中国はアメリカとの貿易摩擦から古紙の輸入元をアメリカから日本へ切替え、大量購入するようになりました。
その結果、日本での古紙流通量が減り、国内で段ボールが不足するなどの影響が出ました。
しかし、一転して中国は「ナショナルソード」と呼ばれる環境規制を設け、古紙や廃プラスチックなどを含む廃棄物の輸入規制の強化に乗り出し、2021年1月からは古紙の輸入を全面的に禁止しました。これによって、台湾や韓国、ベトナムなどの地理的に近い国への輸出が増加しています。

資料：経済産業省「生産動態統計」、財務省「貿易統計」

デジタル化で紙の使用量が減少したことで、新聞、雑誌や印刷用紙などの古紙の回収量は年々減少しています。
世界に目を向けてみると、意外にもロシアのウクライナ侵攻が古紙市場に影響を与えています。

ロシアは新聞用紙の主要輸出国ですが、ウクライナ侵攻の影響によってロシアからの新聞用紙の供給が激減しました。そのため、韓国を中心に、マレーシアやインドネシアなどの新聞用紙メーカーに代替生産の依頼が増加しましたが、原料となる新聞古紙が自国では足りないため、距離的にも近い日本から高値で買い付ける動きが出ているようです。しかし、ただでさえ古紙の発生量が少ないこともあって取り合いとなり、輸出価格の高騰につながっています。
さらに、輸出価格の上昇は古紙問屋から製紙会社への新聞古紙の取引価格も押し上げており、獲得競争に買い負けしている日本国内では新聞古紙の流通量が減少し、製紙会社各社は対応に追われています。

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今回の記事では、日本の古紙リサイクルの実態や激変する古紙市場の動向について解説しました。古紙不足が深刻化するなか、古紙を再利用したペーパータオルなど一部の商品で欠品や納期遅延が発生するなどの影響が出ています。
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